胃のしくみ(1):なぜ、胃袋は胃酸で溶けないの?【いこい通信No.36】
こんにちは。スタッフの宮川です。
腸内細菌について調べている過程で、胃のしくみについても再度勉強しました。
改めて見てみると「なるほど、よくできている」と思うことが多々ありましたので、今回から勉強のまとめも兼ねて、胃のしくみについてお伝えしたいと思います。
なぜ、胃袋は胃酸で溶けないの?
皆さんご存じの通り、胃酸は金属をも溶かす強酸性の液体です。酸性度でいえばpH1~2になります。
そんな胃酸の海に落ちたら、ほとんどの細菌は溶けて死んでしまいます。私たちの健康を守ってくれる大事な砦の一つがこの胃酸なのです。
しかし、胃袋は胃酸で溶けません。金属をも溶かす強酸性の液体に触れているのにもかかわらず、です。胃袋が特別な素材でできているわけでもありません。
なぜ胃袋が胃酸で溶けないかというと、ムチンでできた粘液層が胃袋の表面をおおって、細胞を胃酸から守っているからです。
胃の構造
詳しく見ていきましょう。
胃袋の表面の細胞は「上皮細胞」といって、皮膚や消化管の表面と同じ細胞です。(ただし置かれた環境によって求められる役割が異なるため、例えば皮膚や胃ぐらい環境が違うと、同じ上皮細胞といえど構造上に違いがあります)
そして、その上皮細胞の上を覆っているのが「粘液層」です。粘液層、と聞くと液体を思い浮かべるかもしれませんが、実は少し違います。
粘液層を構成しているのは90%以上が水ですが、その水を保有し、層としてまとめているのは「ムチン」という物質です。
ムチンは細かい紐のような・枝のような形状をしており、それが数えきれないほどたくさん複雑に、網のように絡み合います。この構造に水が引き寄せられ、粘り気を生み出します。そうしてできたのが「粘液層」です。
この層があるおかげで、胃袋は胃酸に直接触れることなく、胃酸タンクとしての役割を果たすことができています。
ただし、粘液層の厚さは食生活やストレス、薬の服用などで容易に変化します。
30%のアルコール摂取、砂糖(ショ糖)の過剰摂取、長期にわたるストレス、胃薬や非ステロイド性抗炎症薬の使用などで粘液層は薄くなり、胃袋の表面の細胞を痛めてしまいます。
暴飲暴食も逆流性食道炎の原因になりますので、注意しなければなりません。
胃のムチン=ウナギのヌメリ
余談ですが、ウナギの体表を覆っているヌルヌルと、私たちの胃の細胞を覆っているムチンは実は同じ成分です。
ウナギがヌルヌルしているのにはちゃんとした理由があります。
簡単に言うと、①浸透圧を調整するため、②皮膚呼吸を可能にするため、③水の抵抗を減らすため、④傷や細菌から身を守るためです。

なので、私たちの胃袋の表面がムチンで覆われているのも、もしかしたら胃酸から細胞を守るだけではないのかもしれませんね。
次回
本記事の内容を踏まえて、次回は胃薬(プロトンポンプ阻害薬)と腸内細菌の関係についてお話ししたいと思います。
宮川