腸内環境を整えることの大切さ(4):食べ物によって健康は決まる【いこい通信No.30】
前回のいこい通信No.29では、私たちはお腹という住まいを腸内細菌たちに提供する代わりに、体に必要な栄養素をもらったり、病原菌から体を守ってもらっているとお話ししました。
そんな腸内細菌たちと末永く共存共栄していくためには、腸内細菌たち(特に善玉菌)を生かすための「エサ」を提供する必要があります。すなわち、私たちが日頃食べている「食べ物」です。
今回は腸内細菌は何を食べるのか、そして腸内細菌を殺すものは何かについてお伝えしたいと思います。少し長くなりますが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
腸内細菌は何を食べるのか?

まずは、有益な腸内細菌たち(善玉菌)のエサとなるものをご紹介します。
腸内細菌は大腸にすみ、私たちが自力で消化吸収できない食物繊維やオリゴ糖などの糖質を食して生きています。
食物繊維やオリゴ糖にあたるのは、海藻類やキノコ類、芋類、玉ねぎやキャベツといった野菜など。
また、善玉菌そのものが含まれているのは納豆や味噌、醤油、ぬか漬けといった日本古来の発酵食品です。
腸内細菌を殺すものは何か?
食べ物はそっくりそのまま、私たちの体を構成するもとになります。であるならば、なるべく体に良いもの、もっと言えば腸内細菌のエサを食べたいところ。
ですが、現代日本の食生活は意識しなければ簡単に「体に負担をかける食べ物」を口にしてしまいます。
体に負担をかける食べ物とはすなわち「人工的につくられた化学物質や薬品が含まれた食べ物」。つまり、加工食品やインスタント食品、農薬まみれの食材、抗生物質などの薬品です。
◇加工食品、インスタント食品

加工食品やインスタント食品はほとんど腸内細菌のエサにはなりません。それどころか、本来自然界にはない物質が体内に入るため、それらを分解し体外へ捨てる(=解毒する)ために多大なエネルギーを必要とします。
加工食品やインスタント食品といった化学調味料・食品添加物たっぷりの食品を好んで食べている人に元気な人が見あたらないのは、私たちの大切な活動エネルギーの大半が「解毒」に使わざるをえないからです。
農薬や抗生物質などの薬品も体にとっては解毒の対象です。もし体外にうまく捨てることができなければ、体が拒絶反応(アレルギーや炎症)を引き起こします。
◇農薬まみれの食材、抗生物質などの薬品
いこい通信No.28でもお話ししたように、植物の根と人間の腸は同じ構造です。植物も人間も、土の中の微生物・腸内の細菌たちが元気に活動してこそ健康でいられます。
しかし、農薬や抗生物質などの「細菌を殺す薬」が使われると、微生物・細菌と共生関係にある植物や人間もまた生命力を削られてしまいます。

例えば、消化器疾患治療薬(胃酸分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬)や抗菌薬。この薬によって腸内細菌が減少したり種類が変わったりして、腸内環境が悪化してしまうことが報告されています。
腸内細菌が薬によって「毒殺」されると当然腸の機能は低下し、全身の状態が変わり、さらなる病気を引き起こす原因になります。
実際、日頃からたくさん薬を飲んでいる人でまことに健康な人は見あたりません。
私たちが食べているものは本当に安全なのか?
「日本の薬品や食品は厳しい検査基準を満たして販売されている。だから安全」
はたして本当に安全なのでしょうか?

近代農業は作物の収穫量を上げるという目的のもと、大量の化学肥料と農薬を使用して発展してきました。しかし、その収穫量は一時的なもので、化学肥料と農薬によって土の中の微生物は殺され、土はどんどんやせ衰えてしまい、もはや化学肥料と農薬抜きに見栄えのいい立派な作物は作れなくなりつつあります。
そんな化学肥料や農薬をたっぷり含んだ作物が一般に流通していきます。
海外から輸入された食材の場合、それらの多くは遠距離輸送の途中で食材に虫がついたり腐ったりしないように殺虫剤や防腐剤などが使用されています。
工場で加工される場合、食品には着色料、香料、人工甘味料、保存料、酸化防止剤などの添加物が数多く使われます。

化学肥料や農薬、防腐剤、食品添加物は食品の見栄えを良くし、長期保存ができつつも、おいしいという良さを生み出しました。そして、これらの薬品・添加物はすべて人体に急激な悪影響を及ぼさない程度の量で使用されています。
しかし、本当にそうでしょうか?
長期間にわたる摂取で起こりうる問題や、複種類の添加物を使用することで起こる問題についてはほとんど調査されていない上、少量なら安全といっても実際は一日に食品添加物が含まれた食べ物をいくつも口にします。
また、薬品や食品添加物を体がどれだけ許容できるか(処理できるか)は個人によって異なるため、人体に悪影響がない程度の量というのが万人に当てはまるわけではありません。
最後に
『人間は、自然から遠ざかれば遠ざかるほど、病に近づく』
これは医学の父、ヒポクラテスの言葉です。現代日本で起っているさまざまな病は、この言葉で見事に説明されています。
近代農業と同じで、私たち人間も薬や栄養剤に頼れば一時的に健康は維持できるかもしれません。しかし、それに頼りきってしまえば、腸内細菌が貧弱になり胃腸の消化吸収力が衰えてしまいます。
飽食と高カロリー食のおかげで見栄えだけは欧米並みに立派ですが、しかし実際は体力のない、か弱い体になっているのが現実だと思います。

ある論文では、地球上のすべての生き物の生体量を調べてみると(炭素量で換算した場合)植物が約82%、細菌が約13%、動物が約0.4%を占めており、地球上には動物の25倍以上の細菌がいることがわかったそうです。
また、地球上で最も細菌が密集している場所は「植物の根っこ」と「動物の腸内」という話もあります。
私たちヒトは、目に見えない圧倒的多数の生き物に支えられて生きているのです。
しかし、これらの生き物の大半はとても弱い生命で、化学物質や農薬、医薬品で簡単にいのちを絶たれてしまいます。
人工的につくられた化学物質や薬品が私たちの腸内環境だけでなく、地球環境すら壊しかねないということを、未来ある子どもたちのためにも心の隅にとどめておいた方がいいのではないかと私は思います。
沼井