花粉症と抗ヒスタミン薬(1):花粉症とは何か?なぜ薬で症状を緩和できるのか?【いこい通信No.23】

寒さが残る今日この頃、花粉症に悩まされる時期が近づいてまいりました。
当院のスタッフや患者さんも毎年花粉で目や鼻がズルズルになっています。かくゆう私もその一人です。

近年、花粉症の時期に差しかかる前から予防として病院に行き、薬を処方してもらう方が多くなりました。そういった場合、よく処方されるのは「抗ヒスタミン薬」です。効果てきめん!とても楽になった。そういう話を耳にします。

しかし、当院のスタッフは、いくら花粉に悩まされても薬による症状の緩和を一切行いません。薬では花粉症の完治が望めないこと、そして薬を使い続けることでより大きなアレルギー症状が起こりうることを知っているからです。

今回は花粉症でお悩みの方に向けて、花粉症と薬のお話をしたいと思います。

年々増加する花粉症患者、重症化するアレルギー症状

花粉症の原因は、主に戦後に全国的に植林されたスギ花粉だといわれていますが、必ずしもスギ花粉だけとは言い切れません。というのも、スギの森林がある山の近くよりも、都市の方が花粉症患者が多いからです。

花粉症の発症には花粉だけでなく、車の排気ガス、食品添加物、農薬(食事)、さまざまな化学物質なども大きく関わっています。地面がアスファルトやコンクリートであることや、清潔過ぎる環境に身を置いているという点も症状を悪化させていると考えられます。

今や花粉症は、季節がら仕方がないと放っておけるほどの症状ではなくなりつつあります。

しかし、まるで病気のように扱い、薬に頼りきってしまうのは少し違うのではないかと私は考えています。

体の正常な防御反応「花粉症」

そもそも花粉症とは何か、という話をします。

花粉症は、スギやブタクサなどの多くの花粉の襲来とともに発症します。
くしゃみや鼻水、涙といった症状は、鼻や目の粘膜に多くの花粉が張りついた結果、それをできるだけ速やかに排除しようとする「生体の防御反応」です。

私たちの皮膚や粘膜、気管支など、体の外と接触する所には肥満細胞ひまんさいぼう(白血球の一種)が広く分布しています。

花粉(異物)が体の中に入ってくると、肥満細胞は異物を感知して、ヒスタミンを放出します。ヒスタミンは、別の鼻粘膜の細胞に「異物が来たぞ!」と知らせるための情報伝達物質です。

受け手の鼻粘膜の細胞には、ヒスタミンを受け取るためのヒスタミンレセプター(受容体じゅようたい)が備わっています。これは細胞の表面に突き出したアンテナで、ヒスタミンをとらえます。

ヒスタミンをとらえた鼻粘膜の細胞は、ただちに「異物が体内に侵入してきたぞ!防御せよ」という情報を読み取り、くしゃみ・鼻水・涙といった防御反応(アレルギー症状)を開始します。

つまり、私たちを悩ませる花粉症状自体は、体を守るための「正常」な反応だといえます。

防御反応をブロックする「抗ヒスタミン薬」

花粉症治療薬として代表的なのは、抗ヒスタミン薬です。

この抗ヒスタミン薬は、私たちの体内にもともと存在するヒスタミンとはなる物質です。簡単に言うと「まがいもの」のヒスタミンです。

抗ヒスタミン薬を服用すると、この「まがいもの」が先回りをしてヒスタミンレセプター(受容体)と結合します。

すると、花粉(異物)が体の中に入ってきて、肥満細胞からヒスタミンが放出されても、先に「まがいもの」がヒスタミンレセプターと結合してしまっているために受け手がおらず、ヒスタミンはブロックされてしまいます。

ヒスタミンがブロックされたことで「異物が体内に侵入してきたぞ!防御せよ」という情報は鼻粘膜の細胞に伝わらず、また先に結合した「まがいもの」は情報伝達物質ではないため、くしゃみ・鼻水・涙といった防御反応(アレルギー症状)が起こらないという寸法です。

例えるなら、ヒスタミンとヒスタミンレセプターはかぎ鍵穴かぎあなのような関係です。ヒスタミンが鍵、ヒスタミンレセプターが鍵穴であり、鍵が鍵穴にはまることで防御反応(アレルギー症状)が起こります。抗ヒスタミン薬はこの鍵穴を先に塞いでしまうため、鍵は鍵穴に入らず、防御反応(アレルギー症状)は起こらないというわけです。

かくして、抗ヒスタミン薬は花粉症につきものの不快な症状を緩和することができました。バイザイ、めでたし、めでたし…となればいいのですが、しかし、問題はこれからなのです。

次回

私たちの体は機械ではありません。
絶え間なく動きながらもバランスを保ち、生体を安定させています。
その生体に対し、意図的に外から手を加えるとどうなるか…。

次回は、抗ヒスタミン薬の服用に伴う「揺れ戻し」についてお話ししようと思います。

沼井