胃のしくみ(3):お砂糖やアルコールは胃の粘液層を突破できる?【いこい通信No.38】

度数の高いお酒を飲むと喉の奥がカァ~!と熱くなったことはありませんか?これは細胞の粘膜(粘液層と上皮細胞)を壊す/刺激するからだと言われています。

でも待ってください。喉の奥、つまり食道の表面の細胞(上皮細胞)は粘液層に守られているはずです。なぜお酒(アルコール)は粘液層を突破できるのでしょうか?

今回はアルコールが粘液層を突破できる理由をお話しした上で、お砂糖を摂ると胃の活動が止まる「糖反射」という反応について考察したいと思います。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

粘液層を突破するってどういうこと?

『NHKまんが驚異の小宇宙・人体〈第2巻〉胃・腸/肝臓』のp.98-100にお酒(アルコール)や薬が胃に障害を与える理由について書かれていました。要約すると、

胃のバランス(胃酸と胃酸から細胞を守る粘液層のバランス)を崩すのはストレスだけではない。お酒(アルコール)や薬も胃に障害を与える。

なぜなら、アルコールや薬の分子量は小さく、粘液層の網を通り抜けて粘液自体を洗い流してしまうからだ。

特に空腹時にアルコールや薬を胃に入れると粘液層のバリアが簡単に突破され、胃壁がうっ血あるいは出血してしまうことがある。

ということです。理解しづらいと思うので、もう少し詳しく説明しますね。

分子量とは?

「分子量」とは、分子に含まれる元素の原子量の合計のことです。

アルコールの分子量は46です。薬、例えば制酸剤ラベプラゾールナトリウム(プロトンポンプ阻害薬の一種)の分子量は381.42です。

一方、胃壁から分泌されるタンパク質分解酵素・ペプシンの分子量は分子量3万5000ほどですので、アルコールや薬がいかに小さいかがわかりますね。

粘液層の網とは?

「粘液層の網」という単語について説明します。

前々回にお話ししましたが、粘液層はただの液体ではありません。粘液層はムチンという細かい紐のような・枝のような物質が数えきれないほどたくさん複雑に、網のように絡み合い、そこに水が引き寄せられてできています。粘液層の網というのはこのムチンのことです。

ではここで、粘液層の網(ムチン)を「テニスラケットの網」、ペプシンは分子量が大きいので「テニスボール」、アルコールや薬は分子量が小さいので「小さな木の実」としてイメージしてみてください。

テニスボールであるペプシンは、ラケットの網に当たると当然はじき返されてしまいます。しかし、小さな木の実であるアルコールや薬は難なくラケットの網目をすり抜けてしまいます。

アルコールや薬が粘液層を突破できる、というのはこういうことです。

粘液層を突破したアルコールや薬は胃の表面の細胞(上皮細胞)に直接刺激を与え、それが胃壁のうっ血や出血の原因になります。また、粘液層を突破する際に粘液自体も洗い流してしまうため、細胞を胃酸の脅威にさらします。

何が言いたいかというと…

胃でこういうことが起きるということは、食道でも起こるということです。

食道の粘液層は胃よりも薄いため、お酒(アルコール)は容易に粘液層を突破し、食道の表面の細胞(上皮細胞)に刺激を与えられると考えられます。これが度数の高いお酒を飲むと喉の奥がカァ~!と熱くなる理由ではないでしょうか?

もっと言えば、カァ~!と熱くなるということは軽い炎症を起こしていると考えられます。ということは、度数の高いお酒を毎日毎日飲んでいると一向に炎症が治まらず、果てには食道がんになる可能性があります。

お砂糖は粘液層を突破できるのか?

お酒(アルコール)や薬の分子量は粘液層を突破できるほどの小ささで、粘液層を突破するとその下にある細胞(上皮細胞)に刺激を与えると説明しました。

では、今回の考察のメインテーマ「糖反射」の「糖」…つまりお砂糖(ショ糖)の分子量はどうでしょうか?

白砂糖(ショ糖)の分子量は342.3、つまり粘液層を突破できる小ささです。

なぜ胃の活動が止まるのか?

では、粘液層を突破したお砂糖(ショ糖)は、どうして胃の活動を止めてしまうのでしょうか?

私はその原因が「浸透圧」にあると考えます。

夏場、梅シロップを作るときは容器に梅と角砂糖を入れておきます。これは浸透圧を利用して梅の水分を抜くためです。

浸透圧とは、お砂糖と食べ物との間で濃度差があり、なおかつ半透膜(水は通すがお砂糖は通さない膜)を隔てて隣接していると、濃度を一定に保つために水が移動する現象のことです。梅シロップの場合、半透膜とは梅の皮のことです。

お砂糖(ショ糖)を摂取すると胃の活動が止まるのは、お砂糖と血液との間に浸透圧差があるからではないかと私は考えます。要するに、お砂糖が胃の表面の細胞(上皮細胞)に到達すると浸透圧のせいで細胞を介して血が引っ張り出されそうになっているのではないかという考察です。

実際、糖反射が起こるのは「胃腸の浸透圧と同じ濃度(5.4%)以上の糖液で15cc以上のとき」だそうです。

じゃあ、なぜすぐ胃の活動が再開しないかというと、胃には小腸と違ってお砂糖を分解・吸収するしくみがないからではないでしょうか。となると、胃はお砂糖の濃度が下がるまで刺激に耐え続けるしかないように思えます。

また、お砂糖(ショ糖)もお酒(アルコール)と同じで、空腹時にポイッと胃に入れると粘液層を突破できやすいと考えられます。「食後のデザート」とはよく言いますが、甘いものを食べるならお腹にある程度ご飯を入れた状態の方が良いのかもしれませんね。

自然界に単純な物質はない

ここまで読むと、お酒やお砂糖が怖いもののように思えてくるかもしれません。

どちらも過度な摂取は禁物というのは確かです。しかし、そもそもなぜ粘液層はお酒(アルコール)やお砂糖(ショ糖)が突破できるような構造なのか疑問に思いませんか?

それは、私たちヒトの体が単純な物質を摂取することを想定してつくられていないからです。

自然界にはアルコールやお砂糖がそのまま存在していることはまずありません。落ちた果物が熟成して果実酒になるように、必ず他の物質とくっついて、複合物質として世に存在します。

つまり、私たちヒトも他の動物も複合物質を食べることを前提に生きてきたのです。

しかし、ヒトは「精製」という手段を開発し、本来自然界には存在しない単純な物質を生み出しました。例えば、サトウキビやてん菜を精製してお砂糖にしたり、ケシを精製してモルヒネという麻薬を作り出したり…。

では単純物質の何が問題かというと、単純物質は複合物質に比べて体に吸収される時間が短く、影響を及ぼしやすいという点です。

これは一概に良いこととは言えません。なぜなら、吸収した食べ物に対して(負担少なく無理のない程度のスピードで)体が適応するためには「ゆっくりとした時間が必要」だからです。血糖値を一気に上げたり、すぐに薬が効くことは(必要な場合もありますが)実は体への負担が大きいのです。

今回の考察は以上となります。ありがとうございました。

宮川