子どもの側弯症について(1):背骨の弯曲はどうやってできるのか?【いこい通信No.33】

近年、学校の身体測定で「側弯そくわん」と診断される子どもが増えてきています。戦前・戦中以前はなかった側弯症が、なぜ現代日本で増加傾向にあるのでしょうか?

今回は「特発性側弯症」の原因について当院の考えを述べたいと思います。

はじめに

昭和一けた 以前の子どもたちには、今のような側弯症はありませんでした。

ポリオ(小児マヒ)や結核によるカリエス(結核菌が脊椎せきついへ感染し、骨に炎症や損傷を引き起こす病気)で側弯になる場合があるだけです。

しかし、現在は小・中学校の成長期に発症する病気として「特発性側弯症」があります。「特発性」とは、現代医学では原因不明を意味します。

特発性側弯症は背骨が前後左右に弯曲わんきょくする変形性の疾患で、成長が止まるまでどんどん進行します。

現代医学ではこの原因がわかっていない上に、姿勢を矯正する装具や手術によって無理やり変形を戻そうとするため、かなり高い確率で内臓の病気などを併発しているといわれています。

背骨の弯曲はどうやってできるのか?

ヒトの体は後ろから見ると、上から下までほぼまっすぐです。

しかし横から見ると、首で前弯ぜんわん・胸で後弯こうわん・腰で前弯ぜんわんというようにS字状のカーブを描いています。こんな形の背骨をしているのは動物の中でもヒトだけです。

本題に入る前に、まずはこの背骨のS字状カーブがどうやってつくられたか見ていきましょう。

(1)ヒトの進化の過程

地球の生き物は今から38億年前に出現し、長い時間をかけてヒトは単細胞生物から「進化=変化」したといわれています。

地球上の生き物の進化は、まず海の中から始まります。一つの細胞から多細胞になり、骨をともなった魚になります。次第に魚のヒレは手足に、エラは肺になって海から陸に上がります。両生類の誕生です。

この進化の過程はヒトの赤ちゃんと同じです。

赤ちゃんは母親のお腹にいるときは羊水につかり、細胞分裂を繰り返して一つの細胞(受精卵)から成長します。羊水から出たあと(出産後)は、手足が短いためいずり移動になります。

体や手足を必死に動かしていると、そのうち手足が重力に順応して丈夫に伸びてきて、爬虫類はちゅうるいのように腹ばいになり、四足しそく動物のようにハイハイになり、上体を起こせるようになるとサルのようにヨチヨチと歩き始めます。

(2)背骨の形が変化する

成長の過程で背骨の形も変化していきます。

赤ちゃんの背骨は母親のお腹にいるときや、生まれてすぐのときはC字状のカーブを示しているだけです。

それから3~4ヶ月をすぎて、寝返りや首をもたげる動作をし始めると、首の部分は前弯(前方凸の形)してきます。

生後1年前後でつかまり立ちを始めると、今度は腰の部分が前弯(前方凸の形)になり、二足歩行で歩き始めるとどんどん大人と同じS字状の背骨へと近づいていきます。

要するに、最初C字状であった背骨は立ったり歩いたりする動き(=直立二足歩行)を繰り返すことで、きれいなS字状のカーブを完成させるのです。

立って歩くことでしかヒトとしての背骨の形・容姿はつくれないともいえます。

(3)胸の形が変化する

ヒトは、魚類から四足動物、そしてサルからヒトにいたるまでの変化の過程で「直立二足歩行」を獲得しました。この直立二足歩行を獲得する過程において、大きく変化したのは胸の形(胸郭きょうかく肋骨ろっこつです。

実際、トラやウシなどの四足動物の胸は前後に長くなっていますが、直立のヒトの胸は左右に長くなっています。

では、胸の形が変化するとどうなるのでしょうか?

例えば、四足動物である犬の心臓は「進行方向に対して」50度の傾きをもっています。一方、ヒトの心臓は「正面から見て」50度の傾きをもっています。

何が違うのかというと、ヒトは四足動物から変化する過程で直立二足歩行を獲得し、前後に長かった胸が扁平へんぺいになり左右に長くなりました

しかしそうすると、胸の中にある心臓などの臓器は居場所を失い潰れてしまいます。そこで、心臓などの臓器は胸の形の変化に合わせて絶妙に回転(90度右回りに回転)し、居場所を確保したのです。

ここでもう一度、ヒトの誕生からハイハイ、ヨチヨチ歩き、大人と同じように歩けるまでの成長過程を見てみましょう。

生まれたばかりの赤ちゃんの胸は前後に厚みがあり、上体を起こして歩くようになると、だんだん扁平になり左右に長くなっていきます。同時に背骨のS字状カーブが形づくられていきます。そして、内臓も少しずつ回転して、ヒトとして正常な位置が決まっていくのです。

次回

長くなりましたが前置きは以上です。
今回の内容を踏まえて、次回は側弯症の原因について述べていきたいと思います。

沼井