子どもの側弯症について(2):日頃の習慣が側弯症をつくる【いこい通信No.34】

前回のいこい通信No.33では、ヒトは四足動物から進化する過程で直立二足歩行を獲得し、背骨がS字状のカーブ(弯曲わんきょく)になったとお伝えしました。今回はその続きからです。

(1)日頃の座り方が側弯をつくる

今の子どもたちがよくする座り方に「体育座り」があります。

何気なしにやっているこの姿勢は、背骨の尾部(仙骨・尾骨)が持続的に圧迫されるため、ヒト本来の背骨のカーブ(腰椎の前弯ぜんわん)がなくなっていきます。

すると、きれいなS字状カーブ(弯曲)になろうとしていた背骨は成長を阻害され、むしろイヌやウシなどの四足動物(腰椎の後弯こうわん)へと逆行することになります。

それと同時に、本来なら「腰椎の前弯」あってこそ整う内臓の配置が「腰椎の後弯」を強いられたことで行き場を失います。すると、内臓をどうにか保護しようとして体は前後にS字状カーブ(弯曲)をつくるのではなく、左右にS字状カーブ(弯曲)をつくります。

尾部を持続的に圧迫して腰を後弯させる姿勢は「体育座り」だけではありません。足の投げ出し座り、あぐら座り、割り座(トンビ座り)などもそうです。

昔と今の違い

歴史的に見ても特発性側弯症が多くなり始めたのは戦後です。戦後の日本はめざましい経済成長とともに生活様式も欧米化していきました。

昔は畳の生活で、正座をするのが一般的でした。腰を丸めただらしない座り方をしていると親から厳しくしかられるほど、立ち振る舞いに厳格でした。

しかし今では洋室が主流になり、正座をすることがなくなりました。ソファーに座って腰を丸めながらテレビを見ても、体育座り・あぐら座りで長時間テレビゲームをしていても、子どもを注意することはありません。それどころか、お年寄りや親ですら正座をしなくなっているのが現状です。

昔の学校は講堂で正座、校庭では立ったままか、もしくはお相撲の蹲踞そんきょの姿勢をとっていました。今は子どもに正座をさせると体罰とみなされることもあり、体育館や運動場などでは体育座りが当たり前になっています。しかし、これが特発性側弯症をつくる一因になっていると考えられます。

(2)歩かないことが側弯をつくる

特発性側弯症が最も多く発見される年齢は6~14歳頃で、ちょうど小・中学校の義務教育の期間です。

また、特発性側弯症になりやすいのは圧倒的に女の子です。男女とも体育座りなどの悪い姿勢をとっているにもかかわらず、これだけ差が出るのは男の子の方が女の子よりも運動量が多いためです。

なぜ、運動量の差が側弯をつくるのか?それは「歩行」をはじめとした運動が、日頃の微細な背骨の歪みを調整・修復していく行為だからです。

6~14歳頃は外で活発に動き回り、安定的な歩行を獲得していく大切な時期です。しかし、今の子どもたちは外で遊ばなくなり、塾やお稽古で一日の時間が奪われ、行き帰りは親の車・送迎バス・自転車などを使用するため、ほとんど歩かなくなりました

私たちの正しい背骨の形は「二本足で立って歩く」ことで獲得されます。側弯症の原因は、そんなヒト本来のあり方を忘れてしまったところにあります。

日頃の立ち振る舞いを見直す

日本では「歩く」「立つ」「座る」「寝る」という日常の立ち振る舞いすべての大切さを、しつけや規律、作法として昔から親から子へと連綿と伝えられてきました。

しかしその風習は失われ、今は電車の中や学校、公共の場で行儀の悪さがよくとりざたされます。脚の大の字に広げて腰を丸くし二人分の座席を占領したり、店先や路上で体育座りをしたり、だるそうな格好で背骨を丸めて歩いていたり、スマホを片手にうつむきながら歩道のど真ん中を歩いたり…。

行儀の悪い、だらしない日常生活の習慣が巷にあふれ、そのことが当たり前になっています。しかし、ほんのわずかな悪い習慣が毎日毎日積み重なると、将来的に体に大きな問題を抱えることになります

ときには、日常の立ち振る舞いをふり返り、「歩く」「立つ」「座る」「寝る」という日常の行動を正す努力も必要です。

まずは大人が姿勢を正し、その上で、子どもが行儀の悪い姿勢をしていたら厳しくしつけなければいけません。それがその子の将来の心身の健康に大きく影響するのですから。

最後に

最近の子どもたちはほとんど歩かなくなり、イヌやウシのような四足動物の形(腰が後弯し、胸はたるのように厚い形)へと逆戻りしているといえます。

これは猿回しで活躍した初代ジロー君の背骨です。11年あまり、長期にわたって二足歩行の訓練を受けた結果、ジロー君はヒトにまさる立派な腰の前弯を獲得しました。

「直立二足歩行」はヒトの容姿・内臓の位置・精神の前向きさすら決定する大切なものです。

側弯症だけでなく、今の子どもたちの心と体の病気は、二本の足を使って歩かなくなった…言い換えれば「ヒト本来の姿」を忘れてしまったところに大きな原因があると当院は考えています。

補足:前回・今回のいこい通信の内容を含めて、特発性側弯症に対する見解をまるっと記した『「特発性側弯症」の原因と治し方 装具と手術への警鐘』を出版しております。ご興味がありましたら、ぜひ一度ご覧ください。

沼井