腸内環境を整えることの大切さ(3):私たちの健康と生命を支えてくれる「腸内細菌」について【いこい通信No.29】

前回のいこい通信No.28では、植物、動物、細菌・微生物はお互いに関わり合って生きているとお話ししました。また、不思議なことに私たちヒトの腸と植物の腸は同じような構造になっており、細菌と共存することで健康と生命を保っています。

今回は私たちのお腹にすんでいる「腸内細菌」についてお伝えしていきたいと思います。

消化器官の内部は体の「外の世界」

まずは、私たちの消化管について。

朝、あなたはおにぎりを手にとってかぶりつきます。おにぎりは口の中で唾液と共にみくだかれ、食道を通って胃に流れ込みます。このおにぎりはあなたの体内に入ったのでしょうか?

正確にいうと、おにぎりはまだ体内に入ったとはいえません

私たちは普通、胃や腸などの消化器官の内部は当然「体内」だと思っています。

しかし、消化器官は簡単に言ってしまえば、長い一本のゴム管が口から肛門こうもんまで体の中心を貫いているにすぎません。ですから、食べ物が口から入って胃や腸に達しても、この時点ではまだ「体の外側」にあるのです。

食べ物は消化管内で酵素こうそや腸内細菌などによって細かく分解され、ブドウ糖やアミノ酸などの小さな形の栄養素として、消化管の壁から体内の血液中に吸収された時にはじめて「体の内側に入った」ことになります。

人間の消化の仕組みは、食べ物を口から入れて肛門から出す、一本の管状のミミズと本質的には同じ構造です。ただ人の場合、その管が途中で袋状にふくれていたり(胃)、ソーセージのようにくびれていたり(小腸)、洗濯機の排水管のようにジャバラ状になっていたり(大腸)するのです。

つまり、体の中に存在しているけれど、消化管の内部は「体の外の世界」なのです。

消化器官の内部にいる細菌たち

ミミズを解剖すると、お腹の中には一本の管が通っています。私たちがもつ胃や腸のような消化器官は見あたりません。では、ミミズはどうやって食べた落ち葉を消化しているのでしょうか?

ミミズは落ち葉の破片や土を食べる時、食べ物と一緒にいる微生物(土壌細菌)もお腹の管の中に取り込みます。そしてお腹の管の中でたくさんの微生物にすんでもらい、その微生物の助けをかりて消化吸収しているのです。

「なんて原始的な方法だ」と思いますが、私たち人間の腸もまた、微生物がいっぱい詰まったソーセージのようなものです。

私たちの腸内には微生物がたくさんすんでいて、その総数はなんと100兆個以上、種類は1000種類以上といわれています。ヒトの細胞総数は37兆個ですから、その2倍以上の微生物がお腹の中にいるわけです。これがいわゆる「腸内細菌」です。

私たちもミミズと一緒で、食べ物と一緒に体に入ってきた良い細菌(腸内細菌)を消化管の内部にすまわせます。私たちの腸の中は温度がほぼ一定の37~38度で保たれ、その上定期的に食料が運ばれてくるので、細菌にとって最適の環境です。

腸内細菌に住まいを提供する代わりに、私たちが食べた肉や野菜、私たち人間が消化できないかたい繊維質を細かく分解して、消化吸収を助けてもらっています。腸内細菌たちの排泄物(ビタミンやミネラル)をもらって、ヒトは体に必要な栄養素を補っています。

また、腸内に多種多様のたくさんの細菌をすまわせることで、外部から入ってきた病原菌がすみつかないように防いでいます

次回

人もミミズも、お腹に多種多様な細菌をすまわせることによって健康や生命を保っています。その細菌たちをしっかり養い、共存関係を築くためには、私たちが日頃何を食べるかが重要になってきます。

次回は、私たちの体を構成するもとになる「食べ物」についてお話ししていきます。