腸内環境を整えることの大切さ(5):薬を飲んでいる患者さんに活力がないのはなぜ?【いこい通信No.31】

こんにちは。院長の山田です。
今回は「腸内細菌」について、実際に私が臨床現場で感じたことをお話ししたいと思います。

活力がないのはなぜ?

私は、医療・福祉の世界にかかわって約50年になります。

病院勤務時代、とても不思議に思ったことがあります。それは、胃薬を長年飲んでおられる患者さんは活力がなく、同年齢の方と比べて老けて見えることでした。

精神薬を飲んでおられる患者さんも同様で、症状は改善するどころか悪化するばかり。しまいには記憶障害や認知症になっていかれました。

また、数多くの薬を併用しておられる患者さんもさまざまな症状で苦しんでいました。

病気を治すための薬を飲んでいるはずなのに、なぜこんな状態になっていくのか…?

ある日、入院中のリハビリの患者さんがあまりにも多種類の薬を飲んでおられたので、心配になって医局を訪ねたことがあります。

「先生、Aさんはこんなに多くの薬を飲んで大丈夫なんですか?」

すると先生は、

「山田君、本当のところはわからないんだよ」

と答えられました。とても正直な先生だったと思います。

患者さんが症状を訴えるたび、その症状を抑える・・・薬が処方されているのが実状だったのです。

あれから何十年と経ち、技術の進歩とともに腸内細菌についてたくさんのことがわかってきました。そして驚くことに、腸内細菌の研究が進んだことで「薬を飲んでおられる患者さんに活力がないのはなぜか?」という疑問にも答えが出ました。

それは「薬が腸内細菌を殺すから」でした。

薬が腸内細菌を殺す

東京医科大学の永田尚義 准教授らが発表した「薬の種類や多剤併用が及ぼすヒト腸内細菌への全貌を解明 ~世界に類を見ない腸内細菌叢ビッグデータベースを構築~」によると、

日本人約4,200例の腸内細菌そう(腸内フローラ)を対象に、腸内細菌そうのバランスに影響を与えるものを調査した結果、薬剤の影響が最も強く、次いで疾患、身体測定因子(年齢・性別・BMI)、食習慣、生活習慣、運動習慣の順であることが明らかになったそうです。

薬剤の中でも消化器疾患治療薬、糖尿病薬、抗生物質、抗血栓薬、循環器疾患薬、脳神経疾患薬、抗がん剤、筋骨格系疾患薬、泌尿器・生殖器疾患薬、その他(呼吸器系疾患薬や漢方薬)の順で、腸内細菌叢のバランスに影響を与えていることがわかりました。

いこい通信No.29でもお伝えしたように、腸内細菌たちは私たちヒトのお腹を住み家とする代わりに、私たちが自力で分解できない食べ物を分解して、体に必要な栄養素を補い、活力を与えてくれています。

そんな腸内細菌たちのバランスを壊してしまうと、腸疾患やアレルギー疾患、糖尿病、うつ病、老化、がんなど、全身のあらゆる病気の発症原因となってしまいます。

生命の活力源である腸内細菌が殺され続けたら、生きる力を失っていくのは当然の摂理なんだと近年の腸内細菌の研究によって私は確信しました。

薬に頼る前にまずは腸内細菌を大切にする

薬は大きなケガや手術をした時など、救急救命の場面では必要なものです。

しかし、食や運動、姿勢、心のありよう、環境など、さまざまな原因で慢性的に起こる病気に対し、その原因を取り除くこともなく、症状を抑えるためだけに副作用がある(体にとって害になる)ものを長期的に飲み続けることは、あまりにも無理があります。

本来、長い時間をかけて起こる慢性病(生活習慣病)は、その原因を見つけ出し、取り除いて、改めることによって健康に向かいます。

安易に薬を使うのではなく、まずは私たちのお腹にいる心強い存在「腸内細菌」を大切にすることから始めてみるのが良いと思います。

山田